パートは正社員の部下ではないのです ~雇用形態のけじめと互いの尊重~

   パートは正社員の部下ではないのです ~雇用形態のけじめと互いの尊重~

 勤務先の従業員には、多種多様な雇用形態があります。役員や正社員、嘱託員や派遣・委託、そしてパートやアルバイト……。

 まずは正社員の方にお訊きしましょう。パートやアルバイトのスタッフよりも、正社員のご自分のほうが、立場が『上』だと思っていませんか??
 次にパートやアルバイトの方にお訊きしましょう。正社員のほうが『上』なのだから、『責任』を持つのも正社員であると、思っていませんか??

 両方とも大間違いです。これがテストなら0点です。実は互いに大切で平等なのです。
 これは、雇用形態の違いによって守られている、互いの領域のようなもので、業務分掌に反映するものです。そしてまた、事業所の経費削減だけの理由でもないのです。

 某総合病院の総務課所属で、経理もサーバーも管理していたあきこさん(仮名)は、赴任当初から病院全体の空気に異常を感じていました。
『正職員の看護師さんが、パートの看護師さんに対して、まるで奴隷を見る目で接しているじゃないの……』
 病院なんてそんなものだと言う事務員さんもいましたが、あきこさん、実は自慢じゃないのですが、入院や手術の経験が多く、つまり病歴(既往歴)の豊富な身体の弱いほうでした。なのでたくさんの病院の空気を、患者としてよく味わってきました。
『業務の分け目はあったけれど、ナースたちに上下なんて感じたことはなかったな……』

 総務課には、いろいろな用事で職員が出入りしますので、あきこさんはいつも、ノックが鳴ったらまず『は~い、どうぞ~』と、入って来易い事務所づくりから始めました。それまではお局さんが、ムスッとしたまま『だれ??』なんてことをしていたのでした。これでは総務課への出入りが怖いでしょう??
 ここでも立場の認識の誤りがありますね。総務課員が偉いだなんて、そんなことはありません。むしろ、全ての職員が働きやすいように、いろいろと影の業務を行うほうが多い部署です。まる1年間はかかりそうだと覚悟して、あきこさんはパート職員を徐々に守る空気を放ちはじめたのでした。

 総合病院では多種多様な専門家が勤務しています。もちろん医師の腕が商品だとも言えますが、看護師、薬剤師、その他入院患者さんの食事に携わる栄養士や、送迎バスの運転士など、世界を箱に格納したような日常が、そこにはありました。各部署『課』や『科』の、どれが停止しても運営が成り立ちません。すべてのスタッフが宝物であり、重要なパーツなのです。上司や部下はありますが、雇用形態や分野が多種多様にまざるともう、上も下もなく『対等』です。病院のみならず、企業や商店でも、会議やミーティング、朝礼が大切なのは、ホウレンソウ(報告・連絡・相談)の第一手段でもあるからです。
 困った人間関係の解消なども、誰かがひとりでアクションを起こすには大きすぎる勇気がいりますが、会議のテーマのひとつとしてならば、みんなが平等に関わる場での、アイデア交換で解決策がまとまります。

 あきこさんは、隣の部屋の事務部長にお願いをしました。事務部長は病院の財政面でのトップの役員でした。でも、あきこさんも経理の分野で事務部長とは仲が良かったものですから、ここはもう頼って胸をかりることにしました。
『正職員とパートの間に、上下も偉いもないことを、それとなく会議でみんなに言って下さいませんか。そうすると当分は文句や陰口のない明るい病院になると思います……』
『そんな空気があったのか。女性は怖いなぁ……』
 ということで、あきこさんの赴任から約1年目の会議で、事務部長の鶴の一声のおかげでもって、悩みはなんでも総務課へ駆け込む空気が、やっと完成したのでした。総務課の役目は、まさにこれなのです。

 すべての人間関係の解消には至らなかったのも事実です。長年に亘って出来上がっていた風習を、梃子でも捨てない古カブさんも多かったですから……。でも、かれら彼女らは待てば定年しますよね。少し仲良くなった仲間同士で、暗黙でその日を待つのもまた、ユニークなチームワークになりました。上手におだてて質の高い仕事をすればいいのです。
 職員の食堂の雰囲気も、やっと健全に近づきました。運転士さんと看護師さんが、雑談をしながら食事をしている場面を見たあきこさんは、事務部長にバレンタインのチョコレートをあげました。

 さて、今日のテーマの『正職員と時間給職員』のことですが、一般的にはパートやアルバイトは、正職員から使われる立場です。でもあくまでも、奴隷や召使いではなく、時間単位でスキルを売る立場として、上手に使ってもらわねばなりません。
 また、正職員の立場の人は、パートさんやアルバイトさんのことを、
『時間が来たら帰ってしまう人材だから、いてくれる間に知恵をもらおう……』
と、ポジティヴな考え方で業務を分かち合いましょう。

 でも、どうしてもお互いに、苦痛が限界に達して辞めてしまいそうな際には、本部や本社に相談をしましょう。事情を考慮して匿名扱いで、上手に解決を促してくれて然るべきですし、商店規模の事業所の場合には、社長に手紙を書いてもいいでしょう。泣き寝入り同然に失業してしまう人が多いご時世ですが、守り合う知恵さえ使えば、本当はもっと人手がほしいビジネスかも知れませんよ。
 あなたの労働時間内に、ほしかった商品を手にできたり、修理に困ったものがもとより良くなったり、カスタマーがカスタマーを連れてきたり、記録的に現場が仕上がったり……労働の尊さに優劣などはないのです。