事務職だけではなく、勤務先によっては店頭や工場のスタッフの方々も、電話には速やかに出るようにと、また何コール以上をお待たせしないようにと、お客様への負担が限りなく出ないようにと教育されているでしょう。
でも就労中にもトイレに行きますし、会話や対話を中断してまで電話に出られない場面も多々あります。そんな電話に積極的に出るテクニックもまた、仕事力として評価されることが多く、知らない間に会社が行ったアンケートなどに、よい評価としてお客さんが名前を覚えていてもらえることもあります。それほど電話の印象は大きいのです。
大人数が所属しているけれど、みんなが営業に出てしまうような事務所で、お留守番になることも多かった事務員のあきこさん(仮名)も、電話にはとことん鍛えられました。
『ただいま外出しておりまして……』
だけでは、相手を怒らせることがあります。
『今日のこの時間に電話すると言っておいたでしょうに!!!!』
と、クレームになっても当然のような、アポのアポの電話のような場合です。
あきこさんは電話に出るのが上手なほうでしたが、自分だけがそうでも足りません。事業所全体の仲間への思いやりがお互いにないことには、職場の居場所の蹴落とし合いになります。これはのちに自分を苦痛へ陥れます。そうして辞めていった人たちを、あきこさんもたくさん見てきました。
『誠に申し訳ございませんが、田中(仮名)はただいま別回線の電話に出ておりまして、終わり次第の折り返しのご連絡でよろしいでしょうか……』
などと、いない人をあたかも隣にいるかのように、上手にかばい合うような仲間づくりを心がけましょう。たとえお互いにきらいなタイプでもです。それと電話力とは別件です。
空気を読むセンスをかなり要する電話……いない人を、本当にいないと確定する役目の場面もあります。
『え??!! 今日うちへきてくれる時間を過ぎたのに、まだそこにいるの??』
などと、先に書いたような場面の逆になってもクレームが出ます。電話が鳴ると恐怖症のようになってしまう人が、実はたくさんいるのです。そんな恐怖症のことは、後半部分に書きましょうか……。電話だけに、ほどよい距離感も大事なのです。
『恐れ入りますが、田中(仮名)は本日、遠方への出張に出ており、夕方まで会議に入っておりますが、お急ぎでしたらわたくしが……』
と、代理の対応の可否を判断するきっかけを、電話からキャッチしてしまうことに慣れたら、もはや遠隔地のスタッフ同士でも、人生最後までの友達にもなりましょう。勝手に対応してはいけない要件には、サラリと交わす心がけも要しますが……。
受電上手なるための道具が実は、アナログな方法です。メモとペンと時計です。電話が鳴ったら受話器をとる手の反対の手で、もうメモの準備ができている人になりましょう。この時代ですからもう、受話器ではなくパソコン画面のクリックで、マイクとヘッドフォンで電話をとる職場のスタッフの方々も多いでしょうけれど、仕組み同じです。
・何月何日何曜日の何時何分に鳴って出た電話なのか(これをまずメモします)
・誰から誰へのどんな内容の電話なのか(これは相手を待たせずに素早く記録します)
・その本人がいなかった、もしくは席を外していたの、どちらとして対応したのか(トイレに行っております……などとは言わないようにしましょう)
・その結果によって相手がこのあと、どうしてほしい様子だったのか(相手も外出先からかけている可能性もあります)
・折り返すべき相手のお名前と番号、もしくはFAXやメールアドレスなどの、再確認を読み上げて行った記録(復唱します……のあれです)
・そして受電した自分の名前
これらを素早くメモします。文字は自分にしか読めないミミズでかまいません。書き直したほうのメモの内容が、不在にしていた人へと、正確に伝わることが大事です。そしてそのメモは、しばらくの間は自分の手元に保管しましょう。双方の連絡と用事が完全に完了するまで、何度が出番のあるメモも出てきます。その際に自分や仕事仲間、お客さんなどのあらゆる立場の『人を守るエビデンス(証拠)』として、ちいさな紙切れが大きな役目も果たします。
但し、人の名前や会社名、住所や番号などは、重要な個人情報です。メモを机に出したままで帰ってしまわないように、格納する場所をよくよく選びましょう。
最後に電話恐怖症のことでしたね。これは理解者の少ない苦痛ですが、我慢を続けすぎるとメンタル面での疾病を発症します。
大企業などの多くがいま、『お客様サポートセンター』といった名称の部署を設けています。なんでも相談室の役目でもある反面、苦情の受付部門でもあります。こういった部署で勤務をしていると、一日のうちに何度も、いや何十回も『お詫び』を述べることになります。そしてそれが仕事ですから、自覚のないままに何度も謝罪を重ねます。すると……なんだかずべての問題ごとに対して、自分が悪いような罪悪感を抱える人も多いです。人の心理はデリケートなのです。そして電話が怖くなります。
まず、異常に電話が怖いと自覚した段階で、上司に相談をしましょう……は、なかなかできませんね。医師に相談しましょう。心療内科や神経内科は、そのような『人には打ち明けにくい謎の恐怖』を治療する医療機関です。何度か通院をしながら、恐怖が軽くならない場合には、医師の診断に基づいて当面の日数のあいだ、職場での電話対応を軽減してもらう権利が、実は労働者にはあるのです。
職場の電話事情と、自分が抱えるプレッシャーとのバランスを、ときどき意識することで、仕事でもプライベートでも、電話の便利さとユーモアを上手に使う魅力を、みんなが発揮できると明るいですね。